電源管理/復帰トリガー
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復帰トリガー (ウェイクアップトリガー) とは、ハードウェアの任意の省電力状態からシステムを復帰させることのできるイベント要因です。自明な例としては、電源ボタンやスリープボタン、Wake-on-LAN 機能、ノートパソコンの蓋のスイッチがあります。復帰トリガーは、以下に挙げる様々なカーネルインターフェイスにより制御できます。すべての可能なトリガーをカバーする統一されたインターフェイスは存在しません。
復帰トリガーインターフェイス
/proc/acpi/wakeup
/proc/acpi/wakeup
ファイルを読み出すと、ACPI に登録されているウェイクアップ要因のリストが得られます。利用可能であれば、対応する sysfs
も得られます。Device 列のエントリをそのファイルに書き込めば、状態を切り替えることができます。例えば、ラップトップを開いたときの復帰を無効化するには:
# echo "LID" > /proc/acpi/wakeup
/sys/module/acpi/parameters/ec_no_wakeup
このファイルは ACPI カーネルモジュールオプション ec_no_wakeup
の値を表しています。このオプションは、システムが suspend-to-idle (s2idle
) 電源状態にあるときに組み込みコントローラからの復帰トリガーを渡すかどうかを制御します [1]。最近のノートパソコンでは、一部のケースで組み込みコントローラの復帰によりバッテリーの過剰な消耗を引き起こすことがあります。
/sys/devices/
復帰をサポートする sysfs
デバイスには、デバイスの power
サブディレクトリ内の wakeup
ファイルがそれぞれ含まれています。このファイルには、復帰トリガーの状態が含まれ、書き込むこともできます。バスコントローラとエンドポイントデバイスは、システムを復帰させることができる可能性があります。例えば、USB コントローラ (バス) からの復帰を無効化するには:
# echo "disabled" > /sys/bus/usb/devices/usb1/power/wakeup
コントローラの設定に関わらず、トリガーが有効化されていれば、エンドポイントデバイスはデバイスを復帰させることができるはずです。しかし、これはハードウェア依存である可能性があります。
sysfs
で PowerTOP インターフェイスをプログラムしてください。ただし、/sys/class/net/
と /sys/bus/usb/devices/
(/sys/devices/
へのシンボリックリンクを含みます) を読み出しても、ネットワーキングデバイスと USB デバイスの復帰トリガーしか得られません。
/sys/class/wakeup/*
/sys/class/wakeup
ディレクトリにほぼすべての復帰トリガーがあります。このディレクトリには、関連するすべてのデバイスへのシンボリックリンクを含みます。サブディレクトリを見れば、利用可能な復帰トリガーを探すのに便利です。一部のトリガーは仮想デバイスに対応している可能性があります。一方、ハードウェア関連の復帰トリガーは、以下のファイルのうち少なくとも1つが含まれています:
/sys/class/wakeup/*/device/physical_node/power/wakeup /sys/class/wakeup/*/device/power/wakeup
/sys/class/wakeup
内の復帰トリガーのいくつかは、以下のファイルが存在する暗号化された /proc/acpi/wakeup
名へのリンクを提供します:
/sys/class/wakeup/*/device/path
永続的な設定
ワンタイムな方法は、/proc/acpi/wakeup
の状態や acpi.ec_no_wakeup
カーネルパラメータを設定するには十分なはずです。udev を用いるイベント駆動のアプローチは、sysfs
デバイスを設定する際に信頼性の高い方法です。
systemd によるワンタイムな方法
ec_no_wakeup
ACPI カーネルモジュールオプションは、この記事で説明されているように起動時に設定できます。sysfs
の値を起動時に設定する標準的な方法は systemd サービスです (例えばこのトラブルシューティングの場合のように)。他にも、/proc/acpi/wakeup
用の systemd ベースのマネージャとして wakeup-triggersAUR があります。
一部のシステムは、電源状態の遷移時にいくつかの ACPI 復帰トリガーを上書きする可能性があります (これは機能というよりバグです)。ハードウェアがトリガーを上書きするタイミングが予測可能な場合、適切な systemd ユニットによりこの問題を解決することができます。sleep.target
は、すべてのサスペンド状態をカバーする汎用 target で、この問題を解決するのに役立つかもしれません。しかし、汎用の wakeup.target
は存在しません [2]。
この方法は、常に接続されている sysfs
デバイスに対してのみ、確実に動作します。
udev によるイベント駆動の方法
udev ルールによる復帰トリガーの状態設定は、復帰トリガーを持つデバイスが接続されている時であれば常に動作するイベント駆動の方法です。重要なのは、ルールで新しいデバイスの追加を検出し (ACTION=="add"
)、ATTR{power/wakeup}="disabled"
で復帰トリガーの状態を設定することです。この設定をハードウェアがリセットしてしまう場合、udev はデバイスの変更のたびにルールを再適用してこの問題の回避を試みることができます (ACTION=="add|change"
)。sysfs
で見つかった特定のデバイスにマッチする利用可能なパラメータとデバイスツリーは、udevadm info -q all -a /sys/devices/...
を使って得られます。
一般的な例としては、Logitech Unifying USB があります。このデバイスの復帰トリガーはデフォルトで有効になっているはずです。これが気に入らない場合、udev ルールで解決できるかもしれません:
/etc/udev/rules.d/logitech-unifying.rules
ACTION=="add", SUBSYSTEM=="usb", DRIVERS=="usb", ATTRS{idVendor}=="046d", ATTRS{idProduct}=="c52b", ATTR{power/wakeup}="disabled"
逆に、必要なトリガーを有効化する場合については udev の記事で説明されています。
udev はデバイス列挙の初期にトリガーするので、復帰トリガーを上記の方法で無効化すると、無効化したトリガー (の一部?) が /sys/class/wakeup
にリストされません。これは、起動時にデバイスが存在していたかどうかに依存しているかもしれませんが、さらなる解明が必要です。
トラブルシューティング
デバイスやバスのツリーを一覧表示する
これらの補助コマンドは、特定のシステムにあるすべての復帰トリガーを把握したい時や、udev ルールを記述したり、一般的な復帰ソースのトラブルシューティングをしたりする時に便利です:
# lshw -businfo -numeric # lspci -DPPnn # lsusb -tvv
前回の復帰トリガー源
前回のデバイス復帰を引き起こした復帰トリガー源についての情報は、残念ながらプラットフォーム依存です。x86 機では、dmidecode で取得できます:
# dmidecode -t system | grep -P '\tWake-up Type\: '
サスペンドからすぐに復帰する
LynxPoint(-LP) を搭載した Intel Haswell 機
LynxPoint と LynxPoint-LP チップセットを搭載した Intel Haswell システムでは、サスペンドからすぐに復帰してしまうことが報告されています。これは、問題のある BIOS ACPI 実装と、xhci_hcd
モジュールがブート中にこの ACPI を解釈する方法と関連しています。回避策として、影響を受けていると報告されているシステムがケースバイケースで拒否リスト (XHCI_SPURIOUS_WAKEUP
) に追加されています [3]。
サスペンド中に USB デバイスが接続されていて、ACPI の復帰トリガーが有効になっている場合などに、復帰してしまうことがあります。そのようなシステムにおける応急処置として、関連する復帰トリガーを無効化してしまう方法があります。以下では、USB による復帰を無効化する方法を例として説明しています[4]。
現在の設定を確認するには:
$ cat /proc/acpi/wakeup
Device S-state Status Sysfs node ... EHC1 S3 *enabled pci:0000:00:1d.0 EHC2 S3 *enabled pci:0000:00:1a.0 XHC S3 *enabled pci:0000:00:14.0 ...
問題のデバイスは EHC1
、EHC1
、XHC
(USB 3.0) です。状態を変更するには root としてデバイス名をファイルに echo してください:
# echo EHC1 > /proc/acpi/wakeup # echo EHC2 > /proc/acpi/wakeup # echo XHC > /proc/acpi/wakeup
上記のコマンドでサスペンドが再度機能するようになるはずです。ただし、設定は一時的なものなので起動するたびに設定し直す必要があります。自動化したい場合は systemd-tmpfiles を見てください。この問題に対する利用可能な解決策は BBS スレッド を見てください。
Gigabyte マザーボード
一部の Gigabyte のマザーボードでは、NVMe ドライブへの GPP ブリッジがサスペンドからすぐに復帰する原因になる場合があります。
以下は、影響を受ける既知のマザーボードです:
- B550i AORUS
- B550 AORUS ELITE V2
- B550 AORUS ELITE AX V2 (Rev. 1.5)
- B550M DS3H
GPP0
の状態を disabled に設定することでこの問題を解決できます:
# echo GPP0 > /proc/acpi/wakeup
上記の Haswell での解決法と同じく、この設定は一時的です。設定を自動化する方法のれいは、この BBS スレッドで説明されています。
NVIDIA ドライバ
NVIDIA のプロプライエタリドライバをインストールすると、サスペンドとハイバネートができなくなることがあります。そのようなケースでは、システムログに以下のメッセージが残ることがあります:
kernel: NVRM: GPU 0000:01:00.0: PreserveVideoMemoryAllocations module parameter is set. System Power Management attempted without driver procfs suspend interface. Please refer to the 'Configuring Power Management Support' section in the driver README. kernel: PM: pci_pm_suspend(): nv_pmops_suspend+0x0/0x20 [nvidia] returns -5 kernel: PM: dpm_run_callback(): pci_pm_suspend+0x0/0x160 returns -5 kernel: nvidia 0000:01:00.0: PM: failed to suspend async: error -5
NVIDIA/ヒントとテクニック#サスペンド後にビデオメモリを保持する を参照してください。
nouveau ドライバ
nouveau ドライバを使用している場合、サスペンドから即座に復帰してしまう原因はドライバのバグかもしれません (nouveau ドライバは GPU のサスペンドを妨げてしまうことがあります)。回避策は、スリープする直前に nouveau
カーネルモジュールをアンロードして、復帰した時に再びロードすることです。これを行うには、以下のスクリプトを作成してください:
/usr/lib/systemd/system-sleep/10-nouveau.sh
#!/bin/bash case $1/$2 in pre/*) # echo "Going to $2..." /usr/bin/echo "0" > /sys/class/vtconsole/vtcon1/bind /usr/bin/rmmod nouveau ;; post/*) # echo "Waking up from $2..." /usr/bin/modprobe nouveau /usr/bin/echo "1" > /sys/class/vtconsole/vtcon1/bind ;; esac
1つ目の echo 行は、フレームバッファコンソールドライバ (fbcon
) から nouveaufb
をアンバインドします。通常、この例にあるように vtcon1
ですが、他の vtcon*
である場合もあります。どれがフレームバッファデバイスであるかは /sys/class/vtconsole/vtcon*/name
を確認してください [5]。