Wayland
Wayland は Linux の新しいウィンドウプロトコルです。GNOME や KDE などの主要な Linux デスクトップは Wayland に対応しており、"Weston" という名前のコンポジタのリファレンス実装も存在します。Wayland で昔の X11 アプリケーションを動作させるための互換レイヤーとして XWayland があります。
要件
ほとんどの Wayland コンポジタは KMS を利用しているシステムで動作します。
また、Wayland はただのライブラリなので、それだけでは使い物になりません。X サーバーを置き換えるには、(Weston や Sway などの) コンポジタあるいは (GNOME や KDE など) デスクトップ環境が必要です。
GPU ドライバーと Wayland コンポジタは同一のバッファ API に対応している場合に互換性があります。主要な API は2つ存在します: GBM と EGLStreams です。
バッファ API | GPU ドライバーのサポート | Wayland コンポジタのサポート |
---|---|---|
GBM | NVIDIA 以外の全てのドライバー | 全てのコンポジタ |
EGLStreams | NVIDIA | GNOME, KDE (Plasma 5.16+) |
GUI ライブラリ
公式ウェブサイト も参照してください。
GTK+ 3
公式リポジトリの gtk3 パッケージは Wayland バックエンドが有効になっています。
Wayland と X 両方のバックエンドが有効になっているとき、GTK+ ではデフォルトで Wayland バックエンドを使いますが、GDK_BACKEND=x11
環境変数を設定することで Xwayland を使うように上書きできます。
Qt5
qt5 パッケージは Wayland をサポートしています。qt5-wayland をインストールしてください。
Wayland プラグインを使って Qt 5 アプリケーションを動作させるには、[1] にあるように、-platform wayland
を使用するか、環境変数 QT_QPA_PLATFORM=wayland-egl
をセットして下さい。一方、Wayland セッション上で X11 を使用させるには、QT_QPA_PLATFORM=xcb
とセットします。
これは、zoomAUR など、システムの Qt の実装を使用しない一部のプロプライエタリアプリケーションで必要になる場合があります。
sway などの一部のコンポジターでは、ネイティブに実行されている Qt アプリケーションの機能が不足している場合があります。 たとえば、 KeepassXC はトレイに最小化できません。 これは、アプリケーションを実行する前に qt5ct をインストールし、 QT_QPA_PLATFORMTHEME=qt5ct
を設定することで解決できます。
Clutter
Clutter ツールキットには Wayland バックエンドがあり、Clutter を Wayland のクライアントとして動作させることが可能です。このバックエンドは clutter パッケージで有効になっています。
Clutter アプリを Wayland 上で動作させるには、環境変数 CLUTTER_BACKEND=wayland
を設定する必要があります。
SDL
SDL アプリケーションを Wayland 上で動作させるには、環境変数 SDL_VIDEODRIVER=wayland
を設定する必要があります。一方、XWayland を使うようにするには、SDL_VIDEODRIVER=x11
を指定します。
GLFW
GLFW で Wayland バックエンドを使用するには、(glfw-x11 の代わりに) glfw-wayland パッケージをインストールしてください。
GLEW
GLEW で Wayland バックエンドを使用するには、(glew の代わりに) glew-wayland パッケージをインストールしてください。
EFL
EFL は Wayland を完全にサポートしています。Wayland で EFL アプリケーションを動かすには、Wayland の プロジェクトページ を見て下さい。
winit
Winit は Rust で書かれたウィンドウ管理ライブラリです。デフォルトでは Wayland が X11 より優先される仕様ですが、明示的に設定することもできます。XINIT_UNIX_BACKEND
環境変数の値を x11
や wayland
としてください。
ディスプレイマネージャ
Wayland コンポジタの実行をサポートしたディスプレイマネージャは以下の表の通りです。種類の列にはディスプレイマネージャが Wayland 上での実行をサポートしているかどうかが示されています。
名前 | 種類 | 説明 |
---|---|---|
GDM | Wayland/X11 上で動作 | GNOME ディスプレイマネージャ。 |
greetdAUR | ログインデーモン | 最小でありながら柔軟なログインデーモン。 |
LightDM | Wayland/X11 上で動作 [2] | 様々なデスクトップに対応したディスプレイマネージャ。 |
LyAUR | コンソール上で動作 | TUI ディスプレイマネージャ。 |
SDDM | X11 上で動作 [3] | QML ベースのディスプレイマネージャ。 |
tbsmAUR | コンソール上で動作 | bash のみに依存するシンプルな CLI セッションランチャー。 |
ウィンドウマネージャとデスクトップシェル
GNOME
バージョン 3.14 から、GNOME は Wayland を使ってデスクトップを動作させることができるようになりました。Gnome コンポジタは X を使用しなくても動かすことができ、Wayland のシステムコンポジタとして動作します。本番環境で使えるほど安定しているとされていますが、まだサポートされていない機能もいくつか存在します (Gnome のドキュメントを参照)。Gnome デスクトップでは、X を使用するアプリケーションは XWayland で動作します。
Gnome Wayland セッションを起動するには、GDM ログインマネージャを使用する必要があります。ログインする前に "Gnome on Wayland" セッションを選択してください。
Enlightenment
E19 から Wayland に対応していましたが、現在は削除されており、E20 以上が通常の利用に耐えうるほど Wayland で安定動作するとされています。詳しくは [4] を参照。
KDE
KDE#Wayland を見てください。
Loliwm
loliwm は Wayland 用のタイル型ウィンドウマネージャです。
sway
Sway は Wayland 用の i3 互換のウィンドウマネージャです。
Velox
Velox は swc ベースのシンプルなウィンドウマネージャです。dwm と xmonad の影響を受けています。
Orbital
Orbital は Qt5 と Weston を使用する Wayland コンポジタ・シェルです。このプロジェクトではシンプルでありながら柔軟性のある見た目の良い Wayland デスクトップを作成することを目標としています。Orbital は完全装備の DE ではなく、どちらかと言えば Awesome や Fluxbox のような X11 におけるウィンドウマネージャに似ています。
Liri Shell
Liri Shell は Liri のデスクトップシェルであり、Wayland のコンポジタとして QtQuick と QtCompositor を使用して作られています。
Maynard
Maynard は GTK ベースの Weston 用デスクトップシェルクライアントです。Tiago Vignatti によるプロジェクト、weston-gtk-shell に基づいています。
Motorcar
Motorcar は 3D ウィンドウを探検できる wayland コンポジタです。
Way Cooler
way-coolerAUR は Rust で書かれた (Lua の設定ファイルによる) 豊富な設定を持つ Wayland コンポジタです。i3 と awesome の影響を受けています。
Maze Compositor
Maze Compositor は 3D の Qt ベースの Wayland コンポジタです。
Grefsen
Grefsen はミニマルなデスクトップ環境を実現する Qt/Wayland コンポジタです。
XWayland
XWayland は、Wayland の下で実行される X サーバーです。 レガシー X11 アプリケーションに下位互換性を提供します。
これを使用するには、xorg-xwayland パッケージを インストール します。
XWaylandはコンポジターを介して開始されるため、選択したコンポジターを使用して、XWayland の互換性と XWayland の開始方法の説明を確認して下さい。
トラブルシューティング
root でグラフィカルアプリケーションを実行
Root で X アプリケーションを起動#Wayland を見てください。
LLVM assertion failure
LLVM assertion failure になるときは、この問題が修正されるまで Gallium LLVM なしで mesa をリビルドする必要があります。
これは LLVM を必要とするドライバを無効にしてしまう可能性があります。ハードウェアドライバに問題が発生するときは、以下の export を試して下さい:
$ export EGL_DRIVER=/usr/lib/egl/egl_gallium.so
Electron ベースのアプリケーションでは、ディスプレイ::0を開けません
GDK_BACKEND = wayland を設定していないことを確認してください。グローバルに設定すると、 Electron アプリが機能しなくなります。
動作が遅い、表示がおかしい、クラッシュする
Gnome-shell で X から Wayland に切り替えるとグラフィック表示に問題が発生することがあります。原因として Xorg ベースの gnome-shell 用に CLUTTER_PAINT=disable-clipped-redraws:disable-culling
が設定されている可能性があります。/etc/environment
などの rc ファイルから該当箇所を削除してみてください。
リモートディスプレイ
いくつか選択肢が考えられます:
- Sway など wlroots ベースのコンポジタでは wayvncAUR VNC サーバーが利用できます。
- Weston には RDP バックエンドが含まれています。weston-rdp(7) を参照してください。
- mutter ベースの場合は gnome-remote-desktop が使えます。公式サイト を参照してください。
- waypipeAUR や waypipe-gitAUR は Wayland アプリケーションの透過プロキシです。SSH を組み合わせることで外部から操作できます。詳細は公式サイトを参照してください。
ゲームやリモートデスクトップ、仮想マシンウィンドウでの入力
Xorg と異なり、Wayland では入力デバイスを独占 (グラブ) することができません。キーボードショートカットやポインタデバイスをアプリケーションウィンドウに渡すのは Wayland コンポジタの役目となっています。
入力グラブが変わったことで以下のように既存のアプリケーションで問題が発生します:
- ホットキーや修飾キーがコンポジタによって認識されてしまい、リモートデスクトップや仮想マシンのウィンドウに送信されなくなります。
- マウスポインタがアプリケーションウィンドウに制限されなくなるため、仮想マシンやリモートデスクトップのウィンドウ内のマウスポインタの位置がホスト環境のマウスポインタとずれるようになります。
Wayland と XWayland にプロトコル拡張を追加することで解決を図っていますが、Wayland コンポジタが拡張をサポートしている必要があり、ネイティブの Wayland クライアントの場合、ウィジェットツールキット (例: GTK, Qt) やアプリケーション自身が拡張に対応していなければなりません。X上で動作するアプリケーションの場合、対応は不要です。
関連する拡張:
- XWayland keyboard grabbing protocol (XWayland のサポートは xorg-server 1.20 開発ツリーに追加されています [7])
- Compositor shortcuts inhibit protocol
- Relative pointer protocol
- Pointer constraints protocol
サポートしている Wayland コンポジタ:
- Mutter, GNOME のコンポジタ (リリース 3.28 以上)。
- wlroots (Relative pointer protocols と Pointer constraints protocol に対応)
サポートしているウィジェットツールキット:
- GTK (リリース 3.22.18 以上)。